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すろ〜ふ〜ど
HowTo企画

『シナリオ編2』

こんばんは、1ヶ月ぶりのご無沙汰です。

今回は前回に引き続き、半端マニアソフト的なシナリオの書き方並びに
それを実際にゲームに起こすまでの作業をご覧いただければと思います。

前回と比較して、今回はシナリオライターからの要望的な部分をどう書くといいか、
またそれに対して、ディレクターはどう対応したらいいのか、
その辺を中心にお送りしようと思います。

ではまず、渡辺僚一のコメントからどうぞー。
ウイッス!(湯けむりスナイパー風に)
うあ〜ぁ(不意に尿漏れした時のようなうなり声で)。
前回のどうだったんッスかね?ちょっとは役だったりしたんッスかね?
まぁ、なってもならんでもいいけどな!関係ねぇよ!
どうでもいいままに、シナリオの続きを行くぜ!
越智さんの妄言に近江君はどこまで我慢できるのか!
そんなあおりを自分で入れてしまうほどテンションを
ガツンと上げて中盤戦にゴゥだッ!
あっ、書き忘れてたけどこれは選択肢ナシですから。
選択肢を入れたら文章量が増えに増ちまうから。

前回と同じく、
以下コメント部分では、こうやって赤の枠と青の枠に囲まれたコメントが登場しますが、これが渡辺僚一(赤)・木緒なち(青)それぞれのコメントとなりますので、
ご参照いただければと思いますー。
 
()このカッコ内の文章はスクリプト担当さんや絵描きさんやその他のスタッフへのメッセージや、自分のためのメモです。
普段は、口頭で伝えたり、印刷した紙にペンで走り書きするようなメッセージも文中に付け加えてあります。



というわけで、前回の続き。
興味のある人は前のブツから読んでください。

・越智さんの話2

<背景海沿いの道夜>

過去場面だとわかる雰囲気を。絵は白黒か白藍とかで。オレは白藍がいいな、カッコイイからな!

ややわかりにくい言い方ですが、ここはおそらくはダブルトーンにしろということなのだと思います。このように、指示する言い方は共通 で伝わる言い方を出来るだけ覚えておくようにしましょう。そして何より、わからなかったらどういうものか聞く、ということです。

表示をウィンドウじゃなくてノベル形式にするか?ちょっとここらへんの演出はいろいろ相談で

なんとなくではなく、見せる読ませる方式を考えてするようにしましょう。
たとえばですが、一つのセンテンスを長く読ませたい場合はノベルがいいでしょうし、短くスパッと読ませたい時はウインドウ、という感じですね。
※もちろん、上記の例に限りませんが。

ここは雰囲気を変えるために行頭一字下げで書いたけど、不自然なら上げで

背景とイベント絵を組み合わせ、立ち絵ナシで進行

新キャラなずなちゃんが少しだけ登場。なずなちゃんは、ロリ系のツラで。なんなら金髪ツインテールで!

越智さんがなずなちゃんを見下ろしている遠景の一枚絵と近景の一枚絵をそれぞれ分割しながらつかうのがベストだと思うけど近景の一枚でも有りかと!

こういう演出上の要求は書いておいた方がいいです。
ですが、時折ゲームではとうてい無理な演出要求もあったりするので、
必要に応じてコンテ的なものを描いて貰いましょう。

淡い月の光が、テトラポットとそれに沿って続く真っ直ぐな長い道を、藍色に照らしていた。
道の真ん中に、倒れている女の子がいる。
私のよく知っている女の子。
なずなちゃん。
痙攣しながら、くひっ、くひっ、くひっ、と喉から変な音を出すなずなちゃんを、私はじっと見下ろしていた。
彼女の着ている可愛いキツネのキャラクターのTシャツに、無数の血痕があった。
顔面の左半分は鮮血に覆い隠されている。
夜に見る血は、赤じゃなくて濃い青色。
だから、なずなちゃんが、青色になってしまう病気にかかってしまったみたいだな、と思った。
なずなちゃんの左腕はぐちゃぐちゃだった。
さけるチーズみたいに付け根まで縦に長く裂け、でろでろになったカップラーメンの麺のように、だらしなく伸びている。
まるで肉でできた熊手か竹箒だ。
左足は根元から千切れて、少し向こうに転がっていた。
その切断面からは、ミミズのような肉が無数に飛び出して、意志があるかのようにピクピク震えていた。

越智「ボロボロだね」

なずな「あっ、越智ちゃん」

なずなちゃんは、にゃははは、と猫のような顔で笑った。

なずな「オーバートランスで足が千切れちゃった」

越智「それじゃ、もう人の姿には戻れないか」

私達は過剰変異(オーバートランス)してしまったら最後。
それでお終い、ゲームオーバー。
私はため息をついて、

越智「どうやって研究室(ラボ)のロックを外したの?」(感情を押し殺した声で)

前回も書きましたが、このように声優さんへの指定と
ルビが同じカッコで括られていると、後ですごく面倒になります。
自分でルールを決めて、【ラボ】[感情を押し殺した声で]
のように分けておくといいですね。

なずな「かんたん」

なずなちゃんは、にゃははは、と笑いながら右手を自分の股にあてた。

なずな「私に一番同情してる眼鏡の研究員に広げて見せたら、
解除してくれた」

驚きすぎて、
胸が、
壊れるかと思った。
私は荒い呼吸を繰り返してから、生唾を飲み込んだ。

越智「解除したのは桜野さんだったんだ……」

なずな「ゴメン。越智ちゃんは、
眼鏡さんと仲良しさんだったもんね」

本当に申し訳なさそうになずなは言った。
頭が、
爆発、
しそうだ。
……いけない。
そんな風になったら、
いけない。
そんな風になったら、
なずなと一緒になってしまうじゃないか。

越智「解除に成功したら、変異した自慢の触腕で、
警備員と研究医を殺して逃亡か……」

なずなちゃんは気まずそうな顔をしていた。

越智「なんでそんな馬鹿なことしたの?
私達が生きていけるのは研究室(ラボ)だけでしょ」

なずな「走りたかったの」

越智「えっ?」

なずな「勝手に走ってみたかったんだ」

……あぁ、そういうことか。
そういうことをなずなちゃんは前にも言っていた。

越智「走った結果が、焼却処分だよ」

なずな「焼け死ぬのは嫌だな。だって痛いんでしょ?」

越智「痛いけどすぐに終わるよ」

なずな「んっもう、他人事だと思って」

なずなちゃんが、ぷー、と頬を膨らませたのが可愛くて、私はついつい笑ってしまった。
青色のなずなちゃんも、笑っていた。
はい、お終い。
なずなちゃんが笑うのはこれで最後。
もう二度となずなちゃんは、笑わない。
私はなずなちゃんの側に落ちていた足を拾った。

越智「これをもらっていくね。
何かないと、なずなちゃんがいたことを忘れそうだから」

なずな「忘れないでね」

私は、うん、とうなずいてから、なずなちゃんを元気づけるために微笑んだ。

越智「すぐに焼け死ねるといいね」

なずな「ありがとう」

背中を向けて真っ直ぐに歩く。
少し離れた所で、武装した6人の男とすれ違った。
彼らは私を無視して、なずなに向かう。
背後で、ぼっ、と炎が上がったのがわかった。
炎の音に混じって、微かに、なずなちゃんの悲鳴が聞こえた。

僕には視点や文体や時間軸を変える癖があるんだけど、読みにくくなるので、本当ならあんまりしねぇ方がいいのかもしれん。まぁ、反面 教師で、そこは一つ!

と、渡辺さんは書いていますが、この辺のギミックは読み手を退屈させないためにも大事な手法だと思いますので、特に禁じ手にしなくてもいいとは思います。
ただ、これをやる場合は、視覚的(システム的)に視点が変わった事をわからせる工夫が必要になると覚えて置いてください。(ウインドウの色を変えるとか、画面 転換時にサイトチェンジ等のテロップを入れる、等)

・場面転換越智さんと近江君の会話
(背景・テトラポットのある砂浜)

二人が場所を移動しないのは背景を少なくするため。一作目の『冬は幻の鏡』は何の意識もせずに場所移動させまくったので必要な背景が信じられない枚数に!同人でゲームを作っていて余裕があるなんてことは滅多にないと思うのでシナリオを書く時に、背景を少なくする、立ち絵の必要なキャラクターを極力少なくする、この二点を意識しておけば、あとあと他のスタッフがちょっとは楽できることに!そういう細かい部分にこだわりてぇんだ!という熱い魂があるなら別 だが

冬は幻の鏡の背景枚数は100枚以上だったと思います、確か(笑)。
ただ、冬〜の時は写真を使っていたので、結構バンバンと背景を入れられた記憶がありますね。もしあなたの作るゲームが写 真を背景に使っていた場合、折角ですから沢山入れて、なおかつ写真は自分でキレイに撮ることをお勧めします!

越智「肉は腐っちゃって、残ったのがこれ」

越智さんは骨をくるくる回して言った。

越智「これを持っていないと、
なずなちゃんのこと忘れそうで、
怖くて……」

あはっ、と空元気丸出しな笑い声を短いため息と一緒に吐き出す。

越智「信じてないでしょ?当然だよね」

越智さんの顔は俺ではなく、海に向けられていた。
なんなんだよ!この空気は!
どう考えても今の話は嘘だ。
専門用語だらけでよくわからなかったが、
研究所から逃げ出した改造人間が、焼却されたって話だよな?
俺の生まれ育ったこのヘビー級の田舎で、
そんな地獄変な出来事がおこっているわけねぇよ!
妄想にも程がある!
ひどすぎる!

越智「数年前、ここを国道と勘違いしたタンクローリーが、
横転炎上した事故があったでしょ?」

近江「あぁ、そういえばそんなこともあったな」

越智「あれは焼却したあとを消すためのカムフラージュ」

……んっ?
もしかして、越智さんの妄想の源はあの事件なのか?
テレビニュースになったりして、大々的に報道されたから、
あの裏に何かあるのかも、と思ってしまったのかもしれん。

越智「やっぱりこんな話は、信じられないよね?」

クスクスと笑う越智さんの顔が、冷たく乾いていた。

えっ?

越智さんが握っている骨が、微かに震えていた。
電気を流されたかのように、右腕が痙攣しているのだ。

近江「おい?」

越智「いやっ!」

越智さんは、足を縮めて背中を丸め、
震えている右腕を左腕で押さえた。

越智「見ないで……」

近江「えっ?」

越智「ごめん。震えてるのを見られるのが嫌で……」

越智さんはツメをたてて、さらに強く左手で右手を押さえた。

越智「3年もたったから話しても大丈夫かな、
と思ったんだけど……」

越智「震えはすぐにおさまると思うから……ごめん」

なっ、なんだこれ?なんだこれ?
もしかして本当の話なのか?
……だから、んなわけねぇって!
越智さんは丸くなって震えながら、
はぁはぁ、と、
水気の多い呼吸をしていた。
……だけど、嘘でこんな風になるか?
こんな演技できるか?
えっ!
ドンッ、と音を立てて俺の心臓が弾んだ。
越智さんの目から、
つぅー、
と涙が流れたのだ。
おいおいおいおい!
えっ、嘘、マジ?
もしかして、越智さんは本当のことを言ってるのか?
いやいやいや、まてまてまて。
そんなわけない、そんなわけないけど……。
えっ?
マジで?
マジで越智さんは改造人間?
改造人間って!
そんなわけねぇよ!
だけど、いやいやい、だけど……いやいや……だけど……。
混乱が脳を浸していく。
俺は自分でも何を言うつもりなのかわからないまま、
口を開いた。

近江「……越智さん、あのさ」

越智「ふはあぁ〜〜」(投げやりな感じで)

越智さんは盛大にため息をつくと、
全身をだらりと弛緩させた。
おおっ?
なんだなんだ?
緊迫感のある空気が一気に吹き飛ぶ。

ここらへんから二転三転。適度に盛り上げていこうかと。長編ならもっと引っ張った方がいいのかもしれないなぁ〜。知らんけど

越智「……ということがあったらいいんだけどね」(さらに投げやりな口調で)

近江「はぁ?」

越智「私は世界に絶望してるんだ」(はっ、って感じで)

越智さんは投げやりな視線を空に漂わせた。

越智「普通の高校生なのに世界に絶望してるなんて変だからさ、
そんな過去があればいいなぁ……と」

近江「ちょまて!じゃ、さっきの話は?」

越智「最近読んだ小説をテキトーに言っただけ」(けっ、という感じのなめた口調で)

近江「その骨は?」

越智「さぁ?狸とかのじゃない?」

越智さんは骨を落とすと、明後日の方向を見て、
ぺっ、
と唾を吐き捨てた。

近江「カアアアッ!」

俺は全力で人差し指を親指で押さえて、越智さんの額に近づけた。

越智「んっ?」

近江「ぬりゃ!」(ビシッって音を入れたらいいのかな?)

越智「イダッ!」

額にデコピンをくらった越智さんが、豪快にのけ反った。

近江「なんでご機嫌な嘘ついたんだテメーッ!」

越智「近江君がヒマそうだったからイダッ!」

もう一度デコピン。

近江「ヒマな人間に嘘をついてヨシと誰が決めた!」

越智「だって……イダッ!」

俺は人差し指でびゅんびゅん風を切りながら、
越智さんをにらんだ。

近江「小悪魔きどってんじゃねぇぞ、タコ助」

越智「でも信じてなかったでしょ?」

近江「迫真の演技してくれたじゃねぇか!
もう少しで大変なことになるところだったぞ」

越智「うわ〜、そうだったんだ。(嬉しそうに)
私、演技の才能があるかも〜。イダッ!」

近江「うわ〜、じゃねぇよ、ボケ!謝れ、コラッ!
土下座してあやまれ、オラッ!」

越智「ごめんなさい」

越智さんはためらいなく土下座をした。
その見事なプライドのなさっぷりと、
その場しのぎな土下座っぷりに呆れて、
それ以上、怒る気がしなくなった。
……まったく、なにがなんだか。

近江「で、なんで世界に絶望してんの?」

土下座していた越智さんは頭を上げると、
ん〜、
と考え込んでから、

越智「人間って愚かでしょ」

近江「はぁ?」

越智「戦争したりさ。そういうことかな」

近江「……人間は戦争したりする愚かな存在だから、
越智さんは世界に絶望しているわけか?」

越智「そうそう、理解が早いね、近江君」

なんちゅう漠然とした絶望だ!
信じられん!
その絶望の仕方に絶望するぜ、マジで!

近江「んな絶望はボランティアでもして消せ!」

越智「そんなんじゃ絶望は消えないっ!」

越智さんは噛みつきそうな様子で、
ぐぃと顔を近づけた。
口を真一文字に結び、眉根に皺を寄せた顔は、
なんかよくわからん迫力に満ちていた。

近江「そっ、それで絶望すると具体的にどうなるんだ」(平静を装う感じで)

越智「死にたくなります!」

小学生のようにすぱっと手を上げて言い放った。
……死にたくなりますって、おいおい!

近江「死ぬなよ」(苦々しく)

越智「心配してくれてるの?」(嬉しそうに)

近江「越智さんが自殺した時、
オレの言動が引き金に?
ってな感じで悩みたくないんだよ!」

越智「そんなの気にしなくていいよ〜。
私が勝手に死ぬだけだからさぁ〜」

へらへらと越智さんは手を振った。

近江「アホか!わかってねぇな、おまえ!
知ってる奴が自殺して、気にならないわけがあるか!」

越智「だから気にしなくっていいってば!」

近江「気になるに決まってんだろうが!
おまえがどう思ってようが、俺はずっとそのことで
悩むことになるの!人様に迷惑かけんな!」

越智「近江君を悩ませないために自殺するなってこと?」

近江「そういうことだ。死ぬのは勝手だが、
俺に迷惑をかけるのだけはやめてくれ」

越智「む〜〜。それは近江君の勝手な言い分じゃないかな?」

今まで散々、勝手なことをわめき散らしていた奴が、
何をいいやがる!
だいたい俺は悩みやすい性格なのだ。
知り合いが自殺したりなんかしたら、
……何か俺にできたことがあったんじゃないか?
……助けてやれなかった俺に非があるのではないか?
などと懊悩することになる。
そんなの想像するだけで怖ろしい。
マジで怖い。

越智「む〜〜、あっ、そうだ!」

不満げだった越智さんが突然、ぱぁ、と明るい表情になると、
悪魔のような含み笑いをした。

越智「うふふっ、私、わかっちゃいました」

近江「なっ、何をわかっちゃったんだよ?」

半端じゃなく嫌な予感がする。

越智「私が自殺しないように、
近江君が努力すればOKじゃない!」

近江「はぁ〜?」

越智「そうすれば私は自殺しなくてすむし、
近江君も悩まなくてすむ。
完璧な答えじゃない!」

近江「おいおい、ちょっと待て」

越智「近江君!私が絶望しない世界にして!」(必死な口調)

近江「勝手に盛り上がってるんじゃねぇ!」

越智「してくれないと、今すぐ舌を噛み切っちゃうかも」

越智さんは悪魔のように微笑んでいる。

近江「脅迫かよ!」

カチンッ!
越智さんがおもいっきり歯を鳴らして口を閉じた。

近江「まっ、マジか!」

本当に舌を噛み切りやがったのか!

越智「冗談でした〜イダッ!」

ベロベロと舌を出す越智さんの額に再び人差し指を叩きつけた。

越智「あぁ〜。
断られたら、遺書に近江君のことなんて書こう」

近江「こっこのファッキンビッチが!」

越智「うふふふっ、私の額をどれだけ赤く腫らしてたって、
近江君は私が自殺するかも、という恐怖から逃れられなくてよ」(お嬢様口調で)

近江「くっ、糞野郎……」

越智「よ〜くよく考えて答えをどうぞ」

越智さんは嫌みったらしく、
どーぞどーぞ、のジェスチャーを繰り返す。

近江「くっ、くぅ、こっ、この野郎!」

……どうせ口だけなんだろうが、もしかしてもしかしたら、だ。

近江「ぬぬぬっ!」

越智「少女ってすぐに世をはかなんで死んじゃいますよね?」

近江「……てめぇ」

越智「死ぬ、死ぬ、死にまーす。
近江君に殺されちゃいまーす」(歌うように)

近江「なんで俺が殺すことになってんだよ!」

越智「だって近江君が助けてくれないんだもん。
それって言い換えれば近江君が私を殺すってことだよ」

こっ、このボケ野郎ッ!
だいたいなんで俺が……。
あぁー、くそったれが。
最初にエロ好奇心を持った俺が悪いのか!
天罰みたいもんなのか、これは?
くそったれが!

越智「近江君に救える命が今、目の前に!」

この野郎、かなり調子に乗ってやがるな。
あーもー、しょうがねぇ!

近江「……ちっ、ちくしょう……わかったよ」

越智「やった〜〜!」

越智さんは嬉しそうにパチパチと拍手をした。
あーくそ!なんでこんなことに……。

ここらへんで二人が勝手に動き出しはじめたので制御してます。本当はもっとべらべら越智さんが喋りまくったんだけど無駄 に長くなったのでカット。だけど長編ならキャラクターを立てるために、ある程度喋らせた方がいいのかもなぁ、よく知らんけど。キャラクターの動かし方って人それぞれだと思うけど、僕はストーリーの枠の中でキャラクターに自由に喋ってもらう書き方をしてます。ポイントっていうかただの独り言だな、これ

ここは人によりけりな部分でしょうね。
自分はかなりプロットから固めていくタイプですので、渡辺さんの方向性とは逆になります。シナリオを書くのに体がなれていない人は、渡辺さんのような書き方をするのはちょっと向いていないかもしれません。プロットはなれればそこそこに固められるようになりますし。

近江「で、具体的に何をしろっていうんだ?」

越智さんは万歳をすると満面の笑みで、

越智「私が絶望しない世界に!」

近江「世界中の戦争を止めるなんて無理だぞ」

越智「近江君ならできるよ!ガンバ!」

近江「できるか!」

越智「まぁ、それはそうだよね。
ん〜〜私は近江君に何をしてもらえばいいのかな?」

なんも考えてねぇのかよ、コイツ。

近江「……自殺したいんだから、自殺の逆をすれば、
死ななくてすむんじゃないのか?」

越智「いい発想かも。でも、それってなに?」

近江「自殺は自分で死ぬんだから……自分で生を作る行為かな」

越智「ん〜〜、哲学的な問題っぽいね」

近江「生を作る行為なぁ〜〜」

越智「ん〜〜」

(微妙な間をあけて)
(稲妻を落とすとか、そういうコメディタッチな演出が入るといいかもな)

近江越智「ああああっ!」(同時に)

こういう、同時に喋る部分は、あとで台本にする時に名前検索で引っかからない場合が多々ありますので、書いた人がちゃんとメモして覚えておきましょう。(台詞の前後に★マークを重ねて置いておくとか、置換しやすいようにしましょう)

脳天に稲妻が落ちたかのようなショック。
どうしてすぐに気づかなかったのだろうか?

近江「それってセックぬおっ!」

越智さんにおもいっきり殴られた。

越智「言うな!」

越智さんの頬が真っ赤になっていた。

越智「そっ、それはりっしんべんだよ!
違いすぎる!ダメすぎる!」

越智さんは首と両手をだだっ子のように、
ぶんぶんと振り回す。
……おおっ?ここまで照れるとは。
ぐふふふ。
……今まで振り回された分、仕返ししてやるか。

俺は頬を嫌な感じに歪め、

近江「助けてあげたいなぁ〜」

越智さんの肩を掴んだ。

越智「きゃっ!」

越智さんは俺を突き放すと、
テトラポットにピタリと背中を張り付けて、
怯えた目を向けた。

越智「じょ冗談だよね?」

近江「何がだいガール?」

両手をわきわきさせながら、じりじりと越智さんに近づく。

近江「越智さんのことを思って、してあげるんじゃないか」

越智「いっイヤ!やっ、やめて……」

俺は肩の力を抜いて、
ふんっ、
と意地悪に鼻先で笑った。

近江「越智さんの絶望って、
こんなことでビクついちゃう程度のもんってことだな」

越智さんは肩を怒らせて、

越智「努力するって約束したのに、どうして虐めるの?」

俺はアメリカ人みたいに両手を広げ、
ふーん、
と鼻息を吐く。

近江「だから本気じゃないんだろ?」

越智「本気だもん」

近江「本気でどうにかしたいと思ってるんだったら、
そんなにビクビクしたりしねぇって、バーカ」

やったぜ!
言ってやったぜ!
逆襲成功!実に痛快!実に爽快!

越智「そんなこと言うんだったら信じてもらうもん!」

越智さんはブレザーのボタンを、
引きちぎるかのような勢いで外しだした。

越智「脱ぐ!」

近江「えっ?」

越智「裸じゃないとセックスできないでしょ!」

越智さんは喧嘩を売るかのように、
バシーンとブレザーを砂に叩きつけた。

越智「近江君も脱いで!」

えっ?あっ?
マジで?

近江「今ここでするつもりかよ?」

越智「今ここでするの!
処女だから痛がると思うけど、
豪快にやっちゃってくださいよ!」

近江「おいおい」

やっちゃってくださいよ、って……。

越智「そうすれば信じてくれるんでしょ!
それでもまだ私の絶望が消えてなかったら、
その時はもっと真剣に考えてね!」

近江「いや、おい、落ち着けって」

一瞬のうちに形勢を逆転されてしまった。
越智さんはシャツの右袖のボタンを外す。
手首が露わになる。

近江「あっ!」

俺は咄嗟に越智さんの手首を握った。
びくっ、と越智さんが身を固くした。

近江「おまえ、かなり頭が悪いだろ!」

越智「へっ?」(キョトンとした声で)

越智さんの手首の裏にも表にも、
刃物でやったとわかる無数の傷があった。
そして、その傷は、
横ではなく、
縦に走ってた。

……何を考えてんだ、コイツ。

近江「いいか、よく聞けよ」

越智「はい?」(キョトン続行)

近江「リストカットは横!」

俺は指先で越智さんの手首をなぞった。

越智「えっ?」

近江「縦じゃ太い血管を切りづらいだろ!
それに裏だけでいいんだよ!
表に太い血管はねぇ!」

越智「へっ?あっ!そうなんだ!」

リストカッターならそのくらいのことは知っとけよ!
っていうか横に切るなんて一般常識だろうか!
なんだって縦に切ろうと思ったんだ?
絞るように越智さんの袖をめくった。
長さ20センチはある傷が無数についていた。
中には見るからに新しいかさぶたのついた傷もある。

近江「これは切ったばかりか?」

越智「うっ、うん」

俺は長いかさぶたができている傷を
何気なく指先でなぞった。
……世界に絶望なんて漠然とした理由で、
こんなことできるか?
もっと具体的な理由があるんじゃないのか。
さらに上の方に向かって、傷跡をなぞっていく。

越智「いっ」

きゅ、と身を縮めて、痛そうに顔をしかめた。

近江「ごめん痛かった?」

越智さんはふるふる首を左右にふって、
申し訳なさそうに、

越智「我慢するから、続けていいよ」

近江「えっ?あっいや別に、
そういうわけじゃないんだ」

俺は、ぱっ、と手を離した。
越智さんは俺はがさわっていた傷を確認するように撫でながら、

越智「Hなこと、始まってる?」

俺は後ずさってファイティングポーズを取った。

近江「そんなわけねぇ!」

越智「始まったのかと思ったよ」

越智さんが、テレテレとうつむく。

まずいまずいまずい。
何がどうまずいのかよくわからないけど、
まずい、って単語だけが頭を激しく駆け巡る。

越智「あのね……覚悟はできるから……でも」

近江「でっ、でも?」

越智「やっぱりそういうのは、あとからがいいかも。
あの、その……準備とかあるし」

俺はは首をぶんぶん縦に振って、

近江「いろいろ試してもダメな時の最後の武器として!なっ?」

越智「そうだね」

あれ〜〜、なんで緊張してんの俺?
心臓バクバクだ。
越智さんは照れ臭そうにニコッと笑って、

越智「私と近江君はおつきあいするんだよね?」

はぁ?

って、オイ!

近江「なぜそんなダークネスな結論に?!」

越智「私のためにいろいろ頑張ってくれるんだよね?
それって、つきあってるのと一緒だよ」

近江「つきあうっていうのは、
好きな者同士じゃねぇとダメだろ!」

越智「そうなるって予言します」

近江「予言が当たるなら99年に人類滅亡だボケェ!」

越智「近江君は陸上部だよね?
私、かけっこの早い人が好き!」

近江「小学生かテメーッ!」

越智さんはニヤリとして手首を指で横になぞった。

越智「横に切るって教えたのは誰?」

近江「また脅迫か!」

無茶苦茶だな、コイツ!

越智「乙女は手段を選びません!答えをどうぞ!」

近江「こっ、この野郎ッ!」

越智「自信はないけど、できる限り、
男の子の強烈な性欲にも対処してあげるし!
私、がんばるよ!」

近江「そういう問題じゃないだろうが!」

越智「つきあってくれないなら死ぬ!」

近江「簡単に死ぬ死ぬいうじゃねぇ!」

やけにキラキラした瞳で越智さんは俺をじっと見ている。
なんでこんなことになってんだよ、俺は!
あーもう、あーもう!
勝手にしろ!

近江「わかったよ。つきあえばいいんだろう」

越智「やったー!」

越智さんは万歳をしながら、ピョンピョンと跳ね回る。
はぁ〜〜。
……虚言癖の自殺志願者の彼女か。
おっそろしく最悪な決断をしちまったんじゃなのいか。
なんでこんなことに。
まぁ、放っておくわけにいかないしな。
ちょっとだけ楽しそうな気も……しないでもないような……。
……ったく、完全に勢いに飲まれたな。
どっちにしろ、自殺志願者を放置するほど図太い精神を
俺は持ってないんだしな。
……しょうがねぇか。
これからのことはもうちょっと冷静になってから考えよう。

越智「彼女、彼女!私、近江君の彼女だぁ、すっげぇ〜」

……すっげぇ〜じゃねぇよ、ボケ。
やけにテンション高けぇな。本当に自殺志願者なのか?
越智さんは俺をビシッと指さして、

越智「はい近江君に質問!近江君の彼女は誰?」

近江「……越智さん」

越智「きゃあ〜!
人間関係って時には信じられない展開を見せるものだね」

近江「テメェーが最初から最後まで操ったんだろうが!」

越智「いいからいいから、ばんざいしようよ、近江君!
はい、ばんざーい、ばんざーい!」

近江「はいはい、ばんざーい、ばんざーい」(投げやりな口調)

俺は投げやりに万歳を繰り返したのだった。
何やってんだ、俺。


<次回に続く>



で、ええ?まだ続くんですか、まじですか。

というわけで第二回、いかがだったでしょうか?
ひとえにシナリオを書くにしても、ゲームシナリオとなると
色々とややこしい決め事が多いことがおわかりかと思います。

ですがこの辺はまだ序の口でして…。
以前聞いた話では、ライターさんに立ち絵の表情指定までを含めて
きっちりとやらせる、というメーカーもあると聞きました。
(そこまでやらないと納品を受け付けないようです)

まあそれは極端な例ですが、スクリプトのやりやすいように
テキストを打っていくと、後々が楽なのは事実です。
あ、ここは面倒だな、と思った箇所ってのは、結局あとで誰かが
埋めないといけない部分だ、と常に思ってテキストを書くと
丁寧さも出るかもしれませんね。


次回、三回目では、シナリオ・テキストのまとめを、
このテトラポットの話を元にしてお話しできればと思います。

それでは、また次回お会いしましょうー。

文責:半端マニアソフト


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第三回に続く

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